勉強会では、歯科領域の異常ではないにもかかわらず「歯の痛み」として現れる諸疾患について、その原因、特徴、および誤診による不要な侵襲(抜歯・抜髄)を防ぐための知識を深めました。
1. 上顎洞性歯痛(鼻・副鼻腔由来)
- 病態: 上顎洞(副鼻腔)の内圧が上昇することで、洞内に露出または近接している神経の根元を圧迫し、強烈な奥歯の痛みを引き起こす。
- 背景: 花粉症の時期や、鼻声・鼻詰まりを伴う患者に多い。
- 診断: 歯科的検査(レントゲンや打診)で異常がない場合、耳鼻咽喉科へ紹介し、内圧を下げる処方を受けることで劇的に改善する。
2. 三叉神経痛(脳神経由来)
- 特徴: 40代以降の女性に好発。「電撃的な激痛」が反復し、患者は「頭も歯もダメになる」と感じるほどの苦痛を伴う。
- 原因: 脳神経(三叉神経)が近接する血管の拡張等によって圧迫されることによる。
- 誤診のリスク: 歯科で「原因不明の痛み」に対し、患者の懇願に押されて抜歯してしまう誤診が非常に多い。1本抜いても治らず、次々と隣の歯を抜いてしまうケースがあるため、ペインクリニック等の専門外来への繋ぎ込みが重要。
- 外科的治療: 血管と神経の間にスポンジを挟む「微小血管減圧術」などが適応となる。
3. 舌咽(ぜついん)神経痛
- 部位: 喉や舌の後ろ3分の1付近の痛み。
- 鑑別: 三叉神経痛と同程度の頻度で存在する。インプラント周囲の痛みとして訴えられることもあるが、埋入後数年経過してからの発症であれば、インプラント由来ではなく血管による神経圧迫を疑うべきである。
4. 心原性歯痛(心筋梗塞・狭心症由来)
- 病態: 心臓の疾患が原因で、放散痛として「歯」や「顎」に激痛が出現する。男女差はなく、腹痛として現れることもある。
- 臨床的警鐘: 歯科的に明らかな原因(重度のカリエスや根尖病巣)がないにもかかわらず、患者が異常な痛みを訴える場合、命に関わる「死の予兆」である可能性がある。
- 事例: 歯の痛みを訴える高齢者に対し、周囲の反対を押し切って家族の要望で抜髄を行った翌日、心筋梗塞で亡くなったケース。医科との連携(内科受診の勧告)が救命の鍵となる。
歯科医療従事者としての留意点
- 「歯に原因がない」可能性を常に考慮する 打診、レントゲン、歯周組織の検査で異常がなく、痛みの性質が異常(電撃的、あるいは全身症状を伴う)な場合は、非歯原性歯痛を第一に疑うこと。
- 安易な侵襲処置の回避 原因不明のまま抜歯・抜髄を行うことは、症状を悪化させるだけでなく、患者のQOLを著しく損なう。
- 多職種・他科連携 耳鼻咽喉科、脳神経外科、循環器内科、ペインクリニック等、適切な専門機関への紹介タイミングを逃さないこと。

