顎顔面再建におけるインプラント治療の考え方について
― 学会発表・講演内容の要約 ―
顎や顔面のがん切除後には、外見や機能の変化に対するさまざまな不安が生じることがあります。
近年の講演や研究報告では、再建治療において「どのような点が患者さんの生活の質(QOL)に影響するのか」という視点から、多角的な検討が行われています。
がん切除後に患者さんが抱えやすい不安について
臨床心理学的な調査報告では、顎顔面領域の手術後において、外見や心理的な問題だけでなく、
- 食事がこれまで通り行えるか
- 噛む・飲み込むといった基本的な機能が保たれるか
といった点が、患者さんにとって大きな関心事となる傾向が示されています。
これらの結果から、咀嚼や摂食といった日常生活に直結する機能の維持・回復が、QOLに関わる重要な要素の一つであることが示唆されています。
顎顔面再建とインプラント治療の位置づけ

2009年に公表された診療ガイドラインでは、顎顔面再建におけるインプラント治療について、
- 十分な科学的根拠が確立されている段階ではないものの
- 有効性が期待される可能性がある治療法
として整理され、推奨度C1に位置づけられています。
これは、
「行うことを一律に推奨・否定するだけの根拠はないが、症例によっては検討され得る治療選択肢」
という意味合いを持つものです。
再建治療における目的と考え方
顎顔面再建では、
- 咀嚼・発音などの機能面
- 装置の安定性
- 口腔内環境への配慮
- 心理的負担の軽減
など、複数の観点を踏まえた治療計画が重要とされています。
インプラントを用いた再建は、これらの要素の一部において、
機能回復や装置の安定性に寄与する可能性があると報告されています。
骨再建技術と材料の変遷

これまでの顎顔面再建では、
- 頭蓋骨
- 肋骨
- 腸骨
- 脛骨
など、さまざまな自家骨が使用されてきました。
近年では、形状や強度、インプラントとの適合性などを考慮し、脛骨が選択されるケースも増えています。
また、人工骨材料(アパタイト)やチタン製インプラントなどの研究・開発が進み、
人工材料と自家骨の結合が良好に認められた症例報告も紹介されています。
血管付き骨移植に関する報告
動物実験および人の臨床データにおいて、
- 血管付き骨移植
- 血管を伴わない骨移植
を比較した研究報告があります。
これらの報告では、長期経過において成着率に大きな差が認められなかったとする結果も示されています。
このことから、再建方法の選択は、
患者さんの全身状態や欠損範囲などを考慮し、個別に判断する必要があると考えられています。
手術後の形態維持と早期回復への工夫
講演では、手術直後からの口腔内形態の維持や、
術後の機能低下をできる限り抑えることを目的とした装置や手法についても紹介されました。
これらは、
- 術後の変形を抑える工夫
- 早期の口腔機能回復を目指す取り組み
として報告されており、患者さんの負担軽減につながる可能性が示唆されています。
再建医療におけるインプラント治療の意義
顎顔面再建におけるインプラント治療は、単に歯を補うことを目的とするものではなく、
- 食事や会話といった日常生活動作の維持
- 社会生活への復帰を支える一要素
として、治療計画の中で検討される場合があります。
おわりに
本記事は、学会発表および講演内容を一般向けに要約したものであり、
特定の治療効果や結果を保証するものではありません。
治療の適応・方法・期間・費用・リスク等は、患者さん一人ひとりのお口の状態や全身状態によって異なります。
詳細については、医療機関での診察・相談を受けたうえでご確認ください。
■ 登壇者紹介(インプラント医育成名誉指導医:朝波 惣一郎)

【経歴】
- 現)国際医療福祉大学 客員教授
- 前)国際医療福祉大学三田病院 歯科口腔外科 教授
- 元)慶応義塾大学医学部歯科口腔外科 准教授

